|
|
■第一話 「すべてを求める欲張りな人へ」
■第二話 「夕暮れのバス停」
■第三話 「最高の普通」は「最高の贅沢」
■第四話 「9Fキャリバーへの思い」
■第五話 「二世代、三世代も使いたい9Fグランドセイコー」「普遍の時」
■第六話 「比較」
|
|
第三話 「最高の普通」は「最高の贅沢」 |
|
クオーツ時計の実用性は『精度』である。
グランドセイコー・9Fキャリバーの精度は年差±10秒。文字にすると実感がわかないが『1年365日×24時間×60分×60秒=31,536,000秒』で、その間にたった10秒程度の差しか生じないということである。
精度の話になると、20数年前の恥ずかしい自身の話を思い出す。
社会人になった私が最初に自分への褒美として購入したのが、ロレックスの時計である。嬉しくて、当時の私の左手は、時計を意識したかなり不自然な動きをしていたことだろう(あぁ、恥ずかしい)。しかし、時刻が遅れる。そこで、私は購入した売場の方に「あのぉ、この時計、時間が狂うんですけど・・・。故障していませんか?」と聞きに行った。売場の方は即座に「そういう時計ですよ」と、おっしゃった。
海外のブランド時計には『華』がある。この時の私は、ロレックスの時計が実際にどのような時計かも知らずに、その華やかさや、ブランドイメージだけで購入していた。その後もしばらくは、コルム、ブルガリといった海外ブランドに心を奪われてきた。正直に書くと『グランドセイコー』には『華がない地味な時計』という印象しかなかった。
しかし、今の仕事を始めて、グランドセイコーに対する思いが大きく変わった。
9Fが『時はこうあるべきだ』という思いを全て実現した、世界最高峰のクオーツであることは言うまでもない。瞬間日送りについても、広く知られている。
この9Fの設計士である名取氏は、いつも何とも言えない笑顔で、ご自身の設計した時計について語られる(「少年のようだ」と書いたら、ご気分を害されるかしら!?)。瞬間日送りの話も感動的だった。
そして、今回の勉強会で名取氏は『針』について熱く語られた。
「夕暮れのバス停で時計を見たときに時刻がわかる、そして、満月の月夜でも見える時計にしたかった。だから、針にこだわった」
質感のある甲丸仕上げの針は、どこから光があたっても見えるように設計されている。この思いを実現するためには、難しい加工への挑戦と試行錯誤があったそうだ。
だからグランドセイコーは『美しい』。そして『見やすい』。
今や、作り手の『熱き思い』に、私は完全に魅せられたというわけである。
ブランド志向のミーハー時代を経て、その後いろいろなことを経験し、四捨五入すると50歳になる今日この頃。「今日を健康に迎えられることが一番の幸せ!」と、幸せの価値観も大きく変わった。
『最高の普通』であるグランドセイコーは、生涯最後に選ぶ時計となり、これからの私の人生の時を、静かに、そして穏やかに刻んでくれるだろう。
『最高の普通』は『最高の贅沢』である。
(J.S)
|
|
|