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■第一話 「すべてを求める欲張りな人へ」
■第二話 「夕暮れのバス停」
■第三話 「最高の普通」は「最高の贅沢」
■第四話 「9Fキャリバーへの思い」
■第五話 「二世代、三世代も使いたい9Fグランドセイコー」「普遍の時」
■第六話 「比較」
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第二話 夕暮れのバス停 |
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私が「9F系」キャリバーについて設計者にインタビューしたのは2004年の事だから、かれこれ2年の月日が流れている。「9F系」キャリバーを支える主な機構の中から「年差±10秒」「瞬間日送り機構」「三軸独立ガイド機構」について、私の言葉で表現してみようと考えたのである。
なぜこの3点なのか。それは「時計が好き」という情熱こそあるものの、機構については全くの素人である私の目にも見えるものだったから・・・というより、目に見えるものを支える機構はどんな発想で生まれたのかを、設計者の名取氏から教えて頂いたからだ。
グランドセイコーを支える美しさと視認性。特に“視認性”において「太くて長い針」という所に、「なるほど」と目を惹きつけられたのを覚えている。
あれから2年。再度「9F系」キャリバーについて話を伺う機会に恵まれ、始めのうちこそ「そうだった」と自分の記憶を確認しながら聞いていたものの・・・途中から「自分は何を聞いていたのか」と驚かされることになる。
『夕暮れのバス停』
皆さんはこの言葉に何を思い浮かべるだろうか?この言葉は“視認性”に限らず、全ての面において「9F系」キャリバーとは何を表現したのか?に関わってくる言葉である。
答えは『時計を見るのは昼間だけではない』
いくつかの時計を夕暮れ時に並べてみたが、時刻を確認できたのはこの時計だけだったというのである。その時に生まれたのが、この言葉。大げさではあるが「太くて長い針」の視認性が証明された瞬間ではなかろうか。実際、時計を購入する際に『夕暮れのバス停』を想定して買う人はいないだろう。
これだけではない。この「太くて長い針」を動かすために三軸独立機構が開発されたが、それは同時に、時刻合わせの際に時針・分針がスムーズに動き、秒針は動かないように設計されている。「他の針の動きにつられてピクピク動くのは嫌だ」という訳である。何故そんな事が考えられたのか。それは「瞬間日送り機構」にある。
実際、年差±10秒の時計の時刻合わせは年に何回もあることではない。しかし、この機構が搭載されていると聞けば、誰でも見たくなる。つまり自分で試してみるのである。そうなると何度も時刻合わせのために針を動かす事になり、その動きが気になるというのである。となるとリュウズもまた然り。回す感覚、一気に2段目まで引き出さないよう、それぞれ加減を変えてある。
2年前、難しく聞こえる機構のしくみが分かり「なるほど!これが9Fの凄さだ」と喜んでいた自分は「一体何を見ていたのか」という気持ちになり、ふと手元のグランドセイコーに目をやったのである。すると「太くて長い針」が“本当に”長く見え、「うーむ、長い」と思わず唸ってしまうのである。そして自分のダイバーウオッチと見比べ「やっぱり長い」と嬉しくなるのだ。「長いだろ?」とニッコリ微笑む名取氏を見て、自分もまた「長いです」と微笑むのである。
やや話が脱線したが、グランドセイコー「9F系」キャリバーには、たくさんの『夕暮れのバス停』が含まれている。その一旦がようやくわかるようになった今。私はこの素晴らしさを多くの人に伝えたいという使命と、もっと機構を勉強したいという情熱に燃えるのである。
(T.U)
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