MENU

第十話

「ガランテ」

私は、SEIKOブランドの仲間『ドルチェ』。
体形は丸型であるけれど、薄いので重さはあまり感じない。大きさも、小さからず大きくもなく、腕につけると何ともシックリとなじみ、多くのお客様に喜んで頂いている。頭の中は当然“水晶時計”なので正確さはご存知のとおり、月差何秒の世界であるから何の問題もない。
しかし止まってしまうと自動巻き、手巻きと違って何としても動こうとはしない所は、少々気になる点なのかもしれない。
私たちの生まれた時代は、時計の価値観とは薄くて、軽くて、大きさは日本人の腕に合うように少々小さめで、水晶時計が良しとされた時代である。

しかしこの定説を覆した仲間がSEIKOから生まれているのである。そしてヤマザキのショウウインドに、私と一緒に並んでいるのである。その容姿は一見海外ブランドのようにも見え、私を含め他の仲間とはまったく違うオーラともいうべき姿がそこにある。大きくて厚くて重いその仲間は、最初に述べた薄くて軽くて小柄な一時代の価値観とは一線を画している。
しかしこれが何と東京をはじめ、全国で売れているのである。
私から言わせるとなんとも『不思議の一言』・・・・。
もっと解りやすくイメージできるよう、新しい仲間を知りたい方はこの続きを読んで頂きたい。

まずは外装。デザインの中心となる4本の円柱(エンタシス)。全てのデザインパーツをつなぐ象徴的な存在が目にはいる。一説にはエンタシスを外すと外装パーツがバラバラになる機能性をも有しているとの事。
購入した人がこんな事を言っていた。「このデザイナー、『御柱』が好きかも?」
時計の裏側を見てみると、スケルトン、ケース底面は官能的カーブを描き全体的に磨き上げられ、そこには上質な個性が見えてくる。着用時には腕に吸いつくような心地好さを与えてくれる。ここに重さを軽減させるヒントがあるのかもしれない。

時計の顔ともいえる文字板は、アンシンメトリー(非対称)なデザイン。どちらかと言うと左右対称的デザインが美しいとされた時代が古く感じられるほど、ユニークなレイアウトをしている。
腕につけるためのベルトはクロコダイルをエナメル加工したものを使い、仕上げのステッチは一針一針が手加工で縫い上げられている(これには恐れ入りました)。しかも腕につけやすいようにと、クサリと同じ三ツ折れ式。

最後に時計の命であるムーブメント。メカ時計なのに月差何秒の世界。『水晶時計とメカ時計が合体』した全く新しい機構の“スプリングドライブ”を搭載している。これはスイスの真似できない所か。
重くて、大きく、厚い時計はものの見事に今の時代に溶け込み、若い人から中年層まで広い範囲で支持され、ひとつの時代を築こうとしている。
こんな時計を私共々是非見に来てほしいと思っている。その名前を最後の最後まで出さなかったのは私の意地悪か?

名は 『ガランテ』 と言う。(T.Y)

「ガランテ」は生産終了となりました。